幻の繁栄 <前篇>


幻の繁栄〜あいの国篇(1)「もうひとつの越中…」
 
時に、2011年元日
昭和レトロの感じさせる建物にある研究所
その名前は、
 
『あいの国都市戦略研究所』
 
研究所といっても、
都市計画局や観光交流局など、実践部隊を抱えた知事直属の大所帯
この研究所は、旧富山県庁を再利用している
重厚な佇まいとレトロな古い装飾を施された内装が、誇り高き研究所の顔となっている
その研究所の奥まった会議室
元日早々から、特命研究チームの研究員達が集まっていた
 
「なんで元日から、新年会なんですか?」
愚痴をこぼしたのは、佐伯小太郎研究員
ニックネームは『ボン』
おぼっちゃんぽい、顔立ちからそう名付けられた
彼は、昨年配属になったばかりの新人で24歳だ
 
「若いんだから、愚痴を言ってはイケマセンよ」
佐伯研究員を嗜めたのは、フランス留学から戻ってきたばかりの城山みらい主任研究員
研究所きっての才女で31歳
ニックネームは『お嬢』
名前からのあだ名のようでもあるが、
実は、有名どころの出だからという話もある
 
「まぁ、若いからこそ愚痴を言うんじゃないかい」
大らかな口調で話す大柄な男性
彼は、特命チームのナンバー2
冷静沈着な46歳、神保泰史主任研究員
ニックネームは『大将』
まぁ、見た目そのまんまなんでしょう
 
「ボン、元日の新年会は、特命チーム伝統の行事なのよ」
ちょっと軽い口調は、姫乃樹優子研究員
歩くファッションリーダーって感じの27歳
ニックネームは『姫』
こちらも、見た目そのままなのか?
それとも、単に名前からなのか?
 
「でも、今日の初日の出は、奇麗でしたよね」
マイペースなのか、狙いなのか
ちょっとピントがズレる発言をするのが、青井圭介研究員
姫乃樹研究員と同期の27歳だ
ニックネームは『博士』
ピントはズレでも、頭脳は明晰!?
 
「あぁ〜ごめんね、みんな待った!?」
遅れて入ってきたのは、37歳の若さで特命チームリーダーとなった前田京子上級研究員
ニックネームは募集中!(いろんな意味で)
結局は、リーダーと呼ばれる
決して、前田家の末裔ではない
 
(研究員全員)「リーダー遅い!!」
  全員が、リーダーを見つめる
  年齢とのギャップ感がある照れ笑いのリーダー
(前田リーダー)「ほんとごめん、寝坊しちゃった」
(研究員全員)「なんですって!?」
  みんな、あきれた顔でリーダーを見る
(城山主任)「信じられない!」
  ちょっと、ぷりぷり顔のお嬢
(神保主任)「正直な所が、リーダーらしいね」
(姫乃樹研究員)「そうですよね」
  意見が合うふたり
(城山主任)「そうなのか?」
  やはり、ぷりぷり顔
(神保主任)「リーダー、新年あけましておめでとうございます」
(研究員全員)「おめでとうございます」
(前田リーダー)「おめでとうございます、今年も宜しくお願いします」
(青井研究員)「でも寝坊してたら、リーダーは初日の出見てないんですね…、もったいない。」
(前田リーダー)「そうなの!?、立山奇麗だった?」
(青井研究員)「あッ、リーダーほどじゃないですよ!」
(前田リーダー)「まぁ、博士ったら!」
(城山主任)「そうじゃなくて…」
  お嬢と対照的に軽い感じで、
(姫乃樹研究員)「で、どこに連れてってくれるんですか?」
(前田リーダー)「任しておいて、カニ鍋の美味しいところよ」
(佐伯研究員)「マジですか!!」
  急に大きい声を出すボンに、みんな大爆笑
(城山主任)「現金だね〜」
(前田リーダー)「何?どうしたの?」
 
所変わって、
元日早々、お店をやっているカニ鍋専門店
 
(前田リーダー)「今年も、どんな特命が来ても、しっかりと研究結果を出しましょうね!」
(研究員全員)「はい!!」
(神保主任)「それでは、不肖わたくし神保が、乾杯の音頭を取らせて頂きます」
(佐伯研究員)「よぉ!大将!!」
(神保主任)「越中都の発展を祈願して、カンパ〜イ!」
(全員)「カンパ〜イ!!」
 
料理が運ばれて、盛り上がる新年会
 
(姫乃樹研究員)「リーダーは行かれました?、JRタワー」
(前田リーダー)「年末忙しくて、行けなかったのよね」
(佐伯研究員)「スゴい、人出でしたよ」
(姫乃樹研究員)「人出だけじゃなくて、ブランド店がずらりと並んで…、スゴいんですよ」
(神保主任)「まぁ、JR北陸の社運が掛かってますからね」
(城山主任)「見とかないといけませんよ!リーダー!!」
(前田リーダー)「そうよね」
 
昨年末、JR富山駅の在来線立体高架化事業が完成
それに合わせて、JR北陸が、本社機能を兼ねた巨大再開発プロジェクト『JR北陸タワー』を富山駅に完成させていた
低層階には、北陸初進出の三越伊勢丹百貨店と東急ハンズが出店
売場面積は、日本海側最大の7万平米
中層階には、森ビルのオフィスフロア
高層階には、ホテルオークラが進出
そして、
日本海側最大の50階タワービルが、聳えたっていた
 
(神保主任)「あれは、摩天楼だね」
(佐伯研究員)「やっぱり、地元の新しい自慢ですよ!」
(青井研究員)「でも、あんな巨大百貨店ができると、既存店は大変です」
(城山主任)「それだけじゃないわ、景観的にもどうかしら」
(姫乃樹研究員)「呉羽山から見た立山連峰とのマッチ感ね」
(佐伯研究員)「いいと思うけどなぁ、都会的で」
(城山主任)「そうかしら?」
(佐伯研究員)「東京だって、高層ビル群に並ぶ富士山って、人気ですよ」
(城山主任)「でも、京都だったら、あり得ない話でしょ」
(前田リーダー)「人口が増えてくると、もっと便利にもっと便利にとなるわよね」
(佐伯と城山)「えぇ」
(前田リーダー)「人口が増えると、いろんな意見も出て来る」
(神保主任)「ふたりのようにね」
(前田リーダー)「東京と京都は、対極にあるけど、越中も人口が増えれば、どこかで選択が必要となる」
(城山主任)「だったら京都でしょ!」
(佐伯研究員)「越中は経済都市ですから、東京志向ですよ!」
(青井研究員)「なら、住民投票でもして決めたら!?」
(姫乃樹研究員)「それって、議会軽視じゃない!」
(城山主任)「私たちの立場もあるわよ」
(前田リーダー)「確かに住民投票なら、都民の意見を反映できるけど…」
  全員がリーダーに注目する
(前田リーダー)「住民投票の結論が、本当に正しいかどうか、それはわからないのよ」
  一同、なんだって表情
  しかし、リーダーは続ける
(前田リーダー)「ゆとり教育の問題があるでしょ。日本の学力が低下したり、子供達の競争心がなくなったり、今の社会に与えている深刻な問題よね」
(城山主任)「多くの国民が、ゆとり教育を疑問に思ってるわ」
(姫乃樹研究員)「だから、国民の声を聞いて、ゆとり教育を見直すんでしょ」
(佐伯研究員)「国のせいで、ボクが一番の犠牲者ですよ」
(前田リーダー)「でもね、ゆとり教育を何故はじめたのか?」
(神保主任)「なるほどね」
(城山主任)「なんなんですか?わかったフリして…」
(前田リーダー)「ゆとり教育も、やっぱり国民の声を聞いてはじめた政策なのよ」
(佐伯研究員)「えッ!?そうなんですか」
(神保主任)「受験戦争が問題視された昭和50年代に、世論の声として、マスコミなどはこぞって『詰め込み教育』が問題だと取り上げた」
(前田リーダー)「だから、その当時の政府は、国民の声を反映して『ゆとり教育』を実現しただけ」
(姫乃樹研究員)「今じゃ、マスコミこぞって『ゆとり教育』は政府の間違いだって、言ってますもんね」
(神保主任)「という事は…、」
(城山主任)「住民投票の結果が、正しいとは限らない…?」
(前田リーダー)「むしろ、行政が住民投票で判断を求めるのは、本来は無責任な事なのよ」
(神保主任)「専門家でも難しい判断を、住民に判断を求めるのは酷だよね」
(城山主任)「わかった…!」
  その声に、大将がうなずく
(城山主任)「その為に、都市戦略研究所がつくられた…」
(前田リーダー)「そういう事。私たちは大変重要な任務をまかされているのよ」
  一同、神妙な表情に変わる
(前田リーダー)「何が正しいか、その判断は大変むずかしい。目先の結果だけに拘ったら、のちのち間違っていたって事もある。だから、100年先を見越した判断をしないとイケナイという事」
(城山主任)「長い目でみるチカラ…」
 
静まりかえる宴会
 
(前田リーダー)「あらッ!ビビっちゃった?」
(城山主任)「そ、そんな事ないですよ」
  ほくそ笑む大将
(神保主任)「リーダー、酒足りないんじゃないですか?」
(前田リーダー)「じゃ、勝駒を熱燗で!」

 幻の繁栄〜あいの国篇(2)「もし、あの時がなければ」
 
あいの国都市戦略研究所の特命研究チーム新年会
リーダーから、自分達の使命がいかに重要かを知らされ、一同は改めて、自分達の故郷を見つめることに
そして、
宴もたけなわとなってきた訳で…
 
(神保主任)「まぁまぁ、リーダー」
  熱燗を勧められて、ちょっとほろよい気分のリーダー
(前田リーダー)「いただきまぁ〜す」
  それを見ていたボン
(佐伯研究員)「大将は、どうなんですか?」
(神保主任)「うん?」
(佐伯研究員)「だって、年下の上司って?」
(城山主任)「う・う・うぅん」
  なんて事を聞くんだという表情のお嬢
(神保主任)「かわいい上司だなぁって、思っているけど」
(前田リーダー)「まぁ、うれしい!」
(青井研究員)「そうですよね〜」
(佐伯研究員)「そうじゃくて、年下の上司で、しかも女性でしょ!?」
(城山主任)「ちょっと、それって…」
(佐伯研究員)「家で、奥さんに言われません!?、情けないとか…」
(城山主任)「あなたね〜、失礼でしょ!!」
  完全にぷりぷりのお嬢!
  えぇ、なんで?って表情のボン
(神保主任)「男女関係なく、みどころのある上司の下で働くって、誇りだよ」
(前田リーダー)「そんな…」
  ちょっと照れくさそうなリーダー
(神保主任)「それに、この街の為にやっているからね」
(青井研究員)「リーダーとの仕事は、楽しいけど、それじゃ理由にならない?」
(姫乃樹研究員)「博士、なんか意見がズレてる…」
  あれッ!っ表情の博士
  
(前田リーダー)「ボンは、故郷は好き?」
(佐伯研究員)「もちろんです」
(前田リーダー)「どんな故郷であって欲しい?」
(佐伯研究員)「それは、やっぱり誇りに思う場所であって欲しいです」
(前田リーダー)「ここにいるみんなはどう?」
  みんなが大きく頷く
(前田リーダー)「考え方や取組み方は違っても、ここにいるみんなは同じ方向を向いている」
  一同が、リーダーに注目する
(前田リーダー)「この街を、誇りある都市にしたい。私は、その中でチームリーダーという役割を今させて頂いているだけ。リーダーは、偉いとか優秀とかじゃないと思うな」
(佐伯研究員)「どんなものなんですか?」
(前田リーダー)「そうねぇ、船頭みたいなものかなぁ。目的地に向けて、舟を安全に運ばなくてはいけない。舟を動かすには、それぞれ役割を持った船乗りがいるでしょ。でも、みんながバラバラだと、舟は動かない。舟をちゃんと動かし、みんなを目的地まで安全に届ける…、そんな船頭かなぁ」
(城山主任)「誇りある目的地」
(神保主任)「あぁ、さすがだね〜」
  お嬢の切り返しに、関心する大将
(青井研究員)「リーダーは、ジャック・スパロウという事ですね!!」
(姫乃樹研究員)「何で海賊になるの!?」
  誇らしげに言う博士に、突っ込む姫
  笑いが広がる
 
(佐伯研究員)「そう言えば、今月から旧富山県庁が知事公舎になるんでしょ」
(城山主任)「わたしたちと同じ建物に入るから、いつふらりと知事がやってくるかわからないわよ」
(姫乃樹研究員)「やだなぁ〜」
(青井研究員)「さぼれなくなるね?」
(姫乃樹研究員)「さぼりませんよ!!」
(佐伯研究員)「でも、なぜ旧県庁を使うんですか?」
(神保主任)「ホワイトハウスにしたいんじゃないの」
(佐伯研究員)「それは格好いいですね」
(姫乃樹研究員)「それじゃ、名前を付けないと」
(前田リーダー)「じゃ〜、ブラックハウスって、どうかした?」
  一同シ〜ンとなる
(神保主任)「お、面白いと思いますよ…」
(城山主任)「ら、らーめんにも、ブラックらーめんがありますし…」
(佐伯研究員)「でも、シャレになってない…感じです」
(青井研究員)「まぁ、ブラックボックスという事で、開けちゃイケナイという事で…」
(姫乃樹研究員)「わけがわからん!!」
  全員、大爆笑
(城山主任)「旧知事室が、ブラックハウスの知事執務室になるんですよね」
(青井研究員)「あそこは、長い間使われてなかったんでしょ」
(佐伯主任)「開かずの扉…」
(神保主任)「きっと、いるよ!!」
(青井研究員)「扉を開けると…」
(佐伯主任)「キャァ〜」
(姫乃樹研究員)「って、おまえかい!」
(城山主任)「あれッ!リーダー、どうしたんですか?」
(神保主任)「まさか、見たんですねリーダー!」
(前田リーダー)「や、やめて!」
(姫乃樹研究員)「マジですか!」
(前田リーダー)「あの扉が開くのね」
(姫乃樹研究員)「わけがわからん!!」
 
(佐伯研究員)「でも、越中は順風満帆ですよね!」
(姫乃樹研究員)「そうだよね、人口も去年250万人を突破したし」
(佐伯研究員)「新潟県の人口を抜いて、日本海側で一番ですよ!」
(青井研究員)「地方都市が、少子高齢化で悩むなか、いまだに転入増加もしているし…」
(神保主任)「今年夏には、第5民放テレビ局も出来るかぁ」
(城山主任)「よく出てきましたよね、テレビ東京!」
(神保主任)「都としては、人口50万人単位で、民放1局政策を打ち出してたからね」
(姫乃樹研究員)「でもやっぱり、越中にも系列局が必要だと言ってくれるのは嬉しいですよ」
(佐伯研究員)「当たり前じゃないですか!、大都市なんですから、当然です!!」
  ボンの言葉に、感慨深い表情の大将…
(神保主任)「大都市だから、当たり前か…。」
(城山主任)「大将、どうしたんですか?」
  大将の反応に、リーダーもちょっと天を仰ぐ
(姫乃樹研究員)「うぅもぉ〜!リーダーまで…。」
 
越中都は、今を遡ること34年前に、富山県とすべての市町村が合併して誕生した
この37年間で、人口は100万人から飛躍的に増加して、いまや250万人を超えている
その成長ぶりは、札・仙・広・福に匹敵したもの
そして、
いわゆる大都市圏を有する国内トップクラスの都市となっていた
 
(神保主任)「今は大都市だから、当たり前と言えるけど…」
  一同、大将に注目する
(神保主任)「越中都がここまで成長したのは、決して当たり前じゃないんだよね」
(佐伯研究員)「えッ!何でなんですか?」
(前田リーダー)「私と同い年だからね、越中都は…」
  ドテッと、みんな転ける
(神保主任)「まぁ、あの時の決断がなければ…」
(前田リーダー)「こんなには、成長していなかった」
(姫乃樹研究員)「あの時って、なんなんですか?」
(前田リーダー)「そう言えば、大将はオリンピック世代ですもんね」
(神保主任)「そうですよ、東京オリンピックの年に生まれましたから」
(城山主任)「東海道新幹線も開業して、高度成長期のいい時代ですよね」
(前田リーダー)「この昭和39年に、越中でも転換期があった」
  みんなが、リーダと大将に注目する
(神保主任)「リーダー。実際には、その前の昭和35年の出来事が重要なんです」
(前田リーダー)「今から51年前の昭和35年元旦の出来事ですか…?」
(神保主任)「そうです、あれです」
(青井研究員)「あれですか?」
(姫乃樹研究員)「知ってるの!?」
(青井研究員)「いやッ!わかんないす!?」
(姫乃樹研究員)「あのね!!」
  博士のボケに、気を取られてるとお店の店員が…
(店員)「すみません!もう時間なんで…」
(一同)「えぇ〜!」
(佐伯研究員)「今の答えは?」
(前田リーダー)「それは…、みんなへの宿題にしましょう!」
(神保主任)「あぁ、いいですね!」
(城山主任)「わたしもですか?」
  ちょっと不服そうな顔
(姫乃樹研究員)「先輩、知らないんですか?」
(城山主任)「…、知ってるわよ!」
  その表情に、リーダーと大将は、顔を見合わせてほくそ笑む
(前田リーダー)「さぁ、今日はここまでね」
(神保主任)「仕事初めは、遅刻しないでくださいよ」
(姫乃樹研究員)「そうです!」
(前田リーダー)「うわ〜、プレッシャーだなぁ」
(一同)「駄目ですよ!」
 
一同笑いの中、新年会は終了した
しかし、
仕事初めに、宿題が特命指令になろうとは、この時は誰も知らなかった
 

幻の繁栄〜あいの国篇(3)「1960年の決断!」
 
仕事初めのこの日
毎年恒例の知事訓示も終わり、ここ『あいの国都市戦略研究所』の特命研究チームでは、互礼会が行なわれていた
 
「新年、あけましておめでとう」
壇上では、研究所の藤本善次郎所長が、威厳高い声で滔々と語りはじめた
 
(青井研究員)「また、長い話がはじまるよ」
(佐伯研究員)「そうなんですか?」
(姫乃樹研究員)「諄いのよね、同じ事言うから」
  ひそひそ話に眉を顰めるお嬢
(城山主任)「うぅうんん」
(藤本所長)「うん?、城山くんは風邪かい?」
(城山主任)「えぇ!?、あぁちょっと…」
(藤本所長)「冬も本格的になるから、風邪には気をつけたまえ」
(城山主任)「す、すいません…」
  モォって表情で、3人を睨みつける
  罰悪げに、顔を伏せる3人
  そこへ、特命研究チームの扉が開く
(佐伯研究員)「アッ!社長だ!?」
(姫乃樹研究員)「知事でしょ」
(藤本所長)「うぅぅん!、新年早々ではあるが、知事から特命研究チームへ新しい任務の話をして頂く」
  一同、神妙な表情に
 
越中都の知事、佐々誠二は初当選が46歳の時
昨年秋の知事選で再選され2期目に入ったばかりだ
 
(佐々知事)「新年、あけましておめでとう」
(一同)「おめどうございます」
(佐々知事)「仕事初め早々だが、各研究員は、ちゃんと宿題をしてきたかなぁ?」
(姫乃樹研究員)「えぇ!?…あぁ」
  思わず声を上げた姫
(佐々知事)「うん?、姫乃樹くんだったかな」
(姫乃樹研究員)「はぁぁ、はい」
  やばいという表情
(青井研究員)「(小声で)姫危うし」
(佐々知事)「その感じだと、宿題よりバーゲンへ行ってたのかなぁ」
(佐伯研究員)「(小声で)す、するどい」
(姫乃樹研究員)「あ、ぁ、すみません…」
(城山主任)「もう、駄目でしょ」
(佐々知事)「じゃ〜、城山くんの方から説明してもらおうか」
(城山主任)「あれは、リーダーからの宿題だとばかり思ってました」
  ただただ、笑顔のリーダー
(城山主任)「えぇぇと、1960年の元旦に配られたチラシですよね」
(神保主任)「おぉ!さすが、お嬢」
(佐伯研究員)「チラシが正解なんですか?」
(姫乃樹研究員)「で、誰が何のために…?」
(城山主任)「正力松太郎の富山百万都市構想が書かれてたのよ」
(佐伯と姫乃樹)「富山百万都市構想」
(青井研究員)「正力松太郎と言えば、読売新聞を発行部数で、世界一にした辣腕経営者」
(神保主任)「射水区大門の出身だね」
(佐伯研究員)「だから、読売新聞が高岡にあるのか?」
  何となく不安げな表情の藤本所長
(藤本所長)「おいおい、ちゃんとみんなは勉強してるんだろなぁ」
(前田リーダー)「大丈夫です。やる時はやりますから」
  優しい表情になる知事
(佐々知事)「まぁ、続けてくれたまえ」
(城山主任)「ハイ!、富山市と高岡市を中心に、富山県に100万都市の実現を呼びかけたチラシを、県内24万世帯に配ったのがきっかけで、越中は変わる事になった」
(佐伯研究員)「24万世帯って、大した事ないように思うけど…」
(青井研究員)「いやいや、その当時の富山県は、人口が103万人程。4人家族世帯の時代だから…」
(佐伯研究員)「県内ほとんどの世帯に配られた!?」
(佐々知事)「正力さんの狙いは?」
(城山主任)「えぇ〜と、その当時は、東京一極集中が進んでいて、地方との格差が広がっていて、太平洋と日本海との経済格差も広がってて、う〜ん、その是正には日本海側に100万都市が必要と考えたから…。」
(姫乃樹研究員)「それって、読売新聞のキャンペーン?」
(青井研究員)「高岡に北陸支社が出来たのは、その翌年」
(前田リーダー)「1960年は、知事が生まれた年の出来事ですよね」
(佐々知事)「そう。先人達の決断があって、いまの越中都の繁栄がある」
(城山主任)「先人達の決断?」
  知事の意味が、よく理解できていないお嬢
(佐々知事)「その後は、どうなったのかなぁ…、青井くん?」
(青井研究員)「ハイ!。新産業都市指定に合わせて、1964年に富山市と高岡市が大合併、人口80万都市『越中市』が誕生します。そして、1968年には政令指定都市に昇格。」
(佐々知事)「そうだね。で、日本で何番目の政令指定都市かな?」
(青井研究員)「えぇ〜とですね、えぇ〜と10番目…?」
  リーダーをちらッちらッとみる博士
(前田リーダー)「全国で、7番目よ」
(神保主任)「横浜・名古屋・京都・大阪・神戸・北九州の次に昇格したんだ」
(佐伯研究員)「札幌・仙台・広島・福岡よりも早かったの!?」
  関心しきりのボンに、あきれ顔の所長
(佐々知事)「越中市から越中都に変わったのは…、姫乃樹くん?」
(姫乃樹研究員)「あぁそれは、北陸新幹線が開業した1977年ですね」
(佐々知事)「何故、政令指定都市があるのに、都を造ったのかなぁ?」
(姫乃樹研究員)「えぇ〜と、それは東京に対抗する為」
(佐々知事)「うん、いい見方だね。じゃ、これを考えたのは、誰かな?」
(姫乃樹研究員)「それは、その時の知事ですよね」
(神保主任)「違うんだな」
  ボン・姫・博士、そしてお嬢までが顔を見合わせる
(前田リーダー)「『県一市構想』、その当時の市町村を全部合併して、県内を一市にしようと提案したのも、正力松太郎さん」
(4人)「へぇ〜、そうなんだ!」
(佐伯研究員)「でも、合併ぐらいの話でしょ」
  所長が空かさず
(藤本所長)「何をいってるんだ。これは大変な事なんだぞ!」
(佐伯研究員)「あッ!すみません」
  罰が悪そうなボン
(佐々知事)「これらの越中の出来事は、奇跡的な事なんだ」
(城山主任)「奇跡的な出来事…」
(前田リーダー)「もし、これらの出来事がおこっていなかったら…」
(城山主任)「というのは…?」
(神保主任)「政令指定都市の『越中市』も出来ずに、今でも富山県のままだったら…」
(前田リーダー)「まぁ、日本海側一番どころか、石川県よりも人口が少なかったでしょうね」
(佐伯研究員)「石川よりも人口が少ないなんて、そんな事、あり得っこないですよ!」
(城山主任)「適当な事、言わないでください!」
  そのやり取りを聞いていた知事、顔色が曇ってきた
(佐々知事)「私も、前田くんの見方が正しいと思っている」
(神保主任)「その当時の県人口が、100万人程。でも、今でも100万人規模しかなかったかもしれない」
(姫乃樹研究員)「えッ!まさか…」
(神保主任)「北陸新幹線も、まだ出来てないかもしれないよ」
(一同)「うそ〜!!」
  そのやりよりに、所長の顔が真っ赤に
(藤本所長)「うぅうん!」
(前田リーダー)「それだけ、重要な出来事なの」
  若い研究員は、一様に信じがたい様子
(佐々知事)「この奇跡的な出来事がはじまって半世紀。先人達の努力があって、今日の越中がある。そして、これからの半世紀は、私たちが造って行かないといけない。」
  全員が、神妙な面持ちで知事を見る
(佐々知事)「これからの半世紀をどうするか考えた時、先人達の思いや考えがどうであったか?。それを踏まえないと、街づくりはできない。『百年単位の街づくり』を行なうためにはだ!」
(城山主任)「ヨーロッパの街づくりのようですね…」
  知事の話の途中での発言に、所長がムッとする
(城山主任)「あッ、すみません」
(佐々知事)「まさしく、その通り。日本では、ここ越中でしかできない取組みだと思っている。だからこそ、君たちにしっかりと調査をして欲しい。次の半世紀の為に」
(前田リーダー)「それが、新しいミッションですね」
(佐々知事)「そうだ!、しっかり頼んだよ」
(全員)「ハイ!」
 
特命研究チームに、新しいミッションがはじまった
 

幻の繁栄〜あいの国篇(4)「日本海側初の政令指定都市誕生!」
 
あいの国都市戦略研究所では、都知事からの指令で、半世紀にわたる奇跡的出来事の調査を開始していた
お嬢こと城山主任と姫こと姫乃樹研究員、それに新人のボンこと佐伯研究員が取組んでいるのは、政治的な出来事
調査室のテーブルには、大量の資料が並べられていた
まず、調査しているのは、政令指定都市誕生の過程
 
(姫乃樹)「なかなか古い文献って、見当たらないもんですね」
(佐伯)「年表はあるんだけど…」
(城山)「知りたいのは、その時の人達がどう考えて、どう行動したかって事よ」
(姫乃樹)「やっぱり、新聞ですかね」
(城山)「姫とボンで、その当時の新聞をわかりやすく、スクラッチブック化してくれる」
(佐伯)「主任の方は…?」
(城山)「その当時の事を知ってそうな人を訪ねて来る。じゃぁ掛かりましょか」
(ふたり)「ハイ!」
 
新聞のスクラップをはじめたふたりだが…
直ぐ、壁にぶち当たる
テーブルには、新聞の縮刷版が並べられているのだが…
 
(佐伯)「その当時の新聞って、地元紙しか残ってないもんなんですね」
(姫乃樹)「大手の縮刷版って、地方面まではないのか?」
(佐伯)「肝心の読売新聞の地方版が手に入らないとは…」
(姫乃樹)「まぁ、地元紙でまとめてみましょう」
 
めぼしい記事を、姫で抜粋して、それをボンがパソコンに手際よく次々と整理していく
 
(姫乃樹)「正力さんの発言と言っても、やっぱり読売新聞だからね」
(佐伯)「地元新聞には、全然出てこない」
(姫乃樹)「ほんとね。まぁ当然なのかも」
(佐伯)「そんなものなんですかね?」
(姫乃樹)「いまでも、イベントなんかは、主催共催で新聞社が絡むと、そのイベントは他の新聞には出ないでしょ」
(佐伯)「縄張りですか…」
(姫乃樹)「まぁ、言い方を変えれば競争でしょ」
(佐伯)「でも、地元の将来を左右する事なら、協力しあってもいいと思うけど…」
(姫乃樹)「それが、できないんだよね」
(佐伯)「じゃぁ、正力さんの構想って、実現させるのはとっても大変だったって事?」
(姫乃樹)「あら!、そういう事ね」
(佐伯)「これが、奇跡的な出来事なのか…」
(姫乃樹)「しかし、古い新聞記事って、データ化されてないのが面倒ね」
(佐伯)「そうですね、1976年以前は、キーワード検索できませんから」
 
ふたりは、記事のスクラップで、事の大変さを感じながら、資料をまとめあげてゆく
そこへ、お嬢が帰ってきた
 
(城山)「どう?、まとまった」
(姫乃樹)「はい。」
(佐伯)「かなり、議会はもめたようですね」
(城山)「どこの?」
(ふたり)「え!?」
  ピンポイントで聞いてくるお嬢にビックリする
(城山)「富山市議会ね」
(姫乃樹)「そうなんですよ、何故か富山市が消極的で」
(佐伯)「高岡市は大賛成だったんですよね」
(姫乃樹)「あと驚きなのが、県庁が推進していた事」
(佐伯)「1960年元日の正力構想から、その年の年末には、県が合併案を自治省に提出しているんですよ」
(城山)「新産業都市指定に向けての条件づくりね」
(姫乃樹)「はい。その合併案がスゴいんです!」
(佐伯)「A案が、富山市と高岡市に中間都市を合併した45万都市案と、B案が更に広域圏にした22市町村合併の71万都市案」
(城山)「なんとしても、新産業都市の指定を受けたかった」
(佐伯)「そんなに、指定を受けるのが難しかったんですかね」
(城山)「その当時の貿易相手国はアメリカだから、当然太平洋側が強いわ。日本海側の指定はかなりハードルがあったようよ」
(佐伯)「公共事業も、太平洋側ばかりですしね」
(姫乃樹)「太平洋ベルト地帯と言われていましたし」
(城山)「県庁は、それを打ち破りたかった」
(姫乃樹)「先輩の方は、」
 
ちょっと渋い顔のお嬢
 
(城山)「さすがに、古い話だからね。詳しい方が見つからなくて…」
(姫乃樹)「そうなんですか…」
(城山)「股聞きの話が多いんだけど、でもね、面白い情報もあったわ」
(佐伯)「どんな話ですか?」
(城山)「当時、高岡市の堀市長は、合併名称を『日本海市』と呼んでいたそうよ」
(佐伯)「でっかい名前ですね」
(城山)「その当時は、同じような大型合併で誕生した北九州市の影響もあったんでしょうね」
(姫乃樹)「でも、何故高岡市は賛成で、富山市は反対なんですか?」
(城山)「それは、持てるものと持てないものの格差があるからよ」
(佐伯)「格差?」
(城山)「格差は、差別化になる」
(姫乃樹)「どういう事ですか?」
(城山)「うん、その当時は、もう高岡市は衰退しはじめてたの」
(佐伯)「高度成長期で、どこも成長してたんじゃないですか!?」
(城山)「高岡市は違っていて、人口は伸び悩み、企業誘致も苦戦してた」
(姫乃樹)「今からじゃ、想像できませんけどね」
(城山)「富山市は戦後焼け野原となったけど、着実に復興して、人口も高岡市を抜き返した」
(佐伯)「その差はなんだったんですか?」
(城山)「それは、富山市に県庁があるという『県都』だからよ」
(姫乃樹)「あッ!、確かに全国を見ても、そこそこ発展している地方都市は大概、県都ばかりよね」
(佐伯)「持てる都市と持てざる都市ね」
(姫乃樹)「でも、合併しても富山区は、県庁所在地で変わらないでしょ」
(城山)「そこが問題。都市の機能が分散するという理由や高岡にいろんなものが持って行かれるんじゃないかという理由とか…」
(佐伯)「なんかセコい発想じゃないですか!」
(姫乃樹)「自分の所さえ良ければいいって事ですか?」
(城山)「まぁまぁ、でも、その時は、富山市にとっては危機感となったのよ」
(姫乃樹)「ふ〜ん」
(城山)「だから、富山市は富山市として周辺町村との合併がいいという意見が多かったの」
(佐伯)「それで、人口はどれくらいになるんですか?」
(城山)「そうね、その当時の富山市は、人口20万人で、周辺都市を吸収すれば、人口25万人を超えるわ」
(佐伯)「それじゃ、ほとんど変わってないじゃないですか」
(姫乃樹)「インパクト弱〜」
(城山)「富山市の湊市長は、積み上げ合併を主張していて、徐々に周辺都市と合併して、将来的には高岡市との合併も考えるとしたのよ」
(姫乃樹)「それは、完全にやる気無しですよね」
(佐伯)「県と高岡市は?」
(城山)「知事と高岡市の堀市長は、大同団結による一括合併を主張」
(姫乃樹)「うわ〜、意見が違い過ぎる」
(城山)「もし、富山市と高岡市が合併できなかったら…」
(佐伯)「やばいじゃないですか!」
(姫乃樹)「他の地方都市と変わらない発展しかしなかった…」
(城山)「そう!、だから、県は強引にでも合併政策を進めたのが…」
(姫乃樹)「県知事ね」
(佐伯)「当時の県人口が100万人なのに、70万人以上の都市ができると、県の役割がなくなるのに頑張っちゃった」
(姫乃樹)「今だったら、絶対にやらないわよ」
(佐伯)「偉い顔できないもんね、県の権益を減っちゃうと」
(城山)「でも、その当時は、権力欲よりも故郷を真剣に考える風土があったって事」
(姫乃樹)「自分達の事よりも、故郷の事を優先する」
(佐伯)「素敵じゃないですか」
(城山)「知事は『たとえ県が無くなっても、この合併は必要なんだ』と、訴えたのよ」
(佐伯)「県が無くなっても…、あッ!」
(姫乃樹)「全県一市化構想?」
(城山)「そうなのよ。知事には、正力さんの考えに共鳴してた」
(佐伯)「でも、地元紙には出てきませんでしたよ」
(城山)「正力さんの名前はね」
(姫乃樹)「『富山市がやならないのなら、市長選に出る』と、知事が発言したから、しぶしぶ富山市が動いたとか…」
(城山)「それだけじゃないわ。『今やらなければ、富山県は100年先に後悔する事となる』とも言われたそうよ」
(佐伯)「やっぱり、知事って偉いですよ」
(姫乃樹)「でも、結構強引ですよね」
(佐伯)「そうですよね、一気に実現させてますから」
(城山)「こういう話って、ゆっくり進めていると、ずるずると流されるものなのよ」
(姫乃樹)「流される?」
(佐伯)「鉄は熱いうちに打て!」
(城山)「もう1年2年、話をまとめられずに時間が過ぎてたら、合併できなかったでしょうね」
(佐伯)「知事が、短期間で話をまとめて奇跡を起こしたという事…」
(姫乃樹)「そうよね!、しっかりしたリーダーがいるかどうかが重要なのね」
(城山)「この合併って、ほんと奇跡的なのよ。知事は、故郷の道先案内人。もし、その知事がちゃんとしたビジョンを持っていなかったら…」
(佐伯)「そう考えると、怖ッ!」
(姫乃樹)「越中にちゃんとしたリーダーがいて良かった」
(城山)「でも、最後までもめたのは、市の名前」
(佐伯)「なんで、名前ごときで」
(姫乃樹)「いや、大事なのよね」
(城山)「富山市側は、最後まで富山の名前に拘った」
(佐伯)「合併しても、富山市ですか?」
(姫乃樹)「地域のプライド問題」
(佐伯)「単なるエゴでしょ、高岡市側の立場もあるだろうし…。自分勝手だよね」
(城山)「『名前ごときで合併ができないとなると問題だ、どんな名称でもいい』と、高岡市長は言ったのよ」
(佐伯)「そこまで折れてまで…」
(姫乃樹)「で、知事が『江戸時代に分裂した故郷を、今こそ一つに戻ろう!』となったのね」
(城山)「そこまで言われたら、富山市も折れたという事。」
(佐伯)「スゴいね、リーダーの役割は」
(姫乃樹)「そんな経緯があって、1964年に『越中市』が誕生した」
(佐伯)「人口は…?」
(城山)「更に、参加した市町村も加わって80万人になったわ」
(姫乃樹)「勝ち組に乗れ!ですね」
(佐伯)「なんか現金だなぁ」
(城山)「ボンみたいじゃない」
(姫乃樹)「ホントね」
(佐伯)「ひ、酷いっす」
  みんな大笑い
(姫乃樹)「で、1968年に越中市は、晴れて政令指定都市に昇格したんですね」
(佐伯)「全国7番目ですか…、スゴいです」
(城山)「でも、まだまだ地方自治の革命が続くわよ」
(ふたり)「革命ですか!?」
(城山)「面白くなってきたわね」
(ふたり)「ハイ!」
 

幻の繁栄〜あいの国篇(5)「北陸新幹線開業す!」
 
あいの国都市戦略研究所では、知事からの勅命で、半世紀の奇跡的出来事を調査している
この第2会議室では、大将こと神保主任と博士こと青井研究員が、都市インフラの公共事業を調査していた
 
(神保)「何と言っても、北陸新幹線からだろう」
(青井)「越中都にとっては、動脈ですからね」
(神保)「動脈かぁ」
(青井)「違いますか?」
(神保)「越中都が心臓としたら…」
(青井)「うぅん?。動脈はエネルギーを送る」
(神保)「越中からエネルギーを送ると言うと…」
(青井)「ストロー現象?」
(神保)「越中都にとっては、静脈でないとイケナイ」
(青井)「吸い上げる」
(神保)「東京・大阪・名古屋から、」
(青井)「その強みが、新幹線にはあるんですね」
(神保)「じゃぁ早速、歴史的過程を調査しようか?」
 
ふたりは、既に準備していた過去の資料を拡げて、分析をはじめた
都の倉庫に残っていた資料や、古い文献などが並んでいる
 
(神保)「北陸新幹線構想が、はじめて世に出たのは…」
(青井)「これですよね!」
 
その当時の、新聞記事を並べる
 
(青井)「1965年9月26日、金沢に行なわれた『1日内閣』です」
(神保)「1964年10月に、東海道新幹線が開業したから、その1年後」
(青井)「1964年は、東京オリンピックで、大将の生まれた年でしたよね。今年で…」
(神保)「うん?。ハハハハ、いい歳だよ!」
(青井)「1日内閣?」
(神保)「その時の佐藤内閣の主要閣僚が、金沢で行なった、まぁタウンミーティングみたいなもの」
(青井)「そこで、富山県代表の岩川毅さんが、『北陸新幹線構想』を提案した」
(神保)「岩川さんは、中越パルプ工業の創業者だからね」
(青井)「中越パルプと言えば、高岡ですよね。やっぱり、正力さんの影響があったんでしょうか?」
(神保)「どうだろう?。当時は、砺波商工会議所の会頭をされたから、何とも言えないけどね」
(青井)「東京から山梨・松本・富山・金沢、そして大阪を結ぶ北陸新幹線構想」
(神保)「佐藤首相も、検討の価値ありとしたからね」
(青井)「でも…、その後は議論があったみたいですよ」
 
書類や新聞記事を並べて、整理してゆくふたり
 
(青井)「ほら、北陸新幹線構想という名称をやめて、北回り新幹線構想にしようとか、ルートを松本経由から長野市経由にしようとか…?」
(神保)「この構想見直しをやっちゃうと、失敗してたかもなぁ」
(青井)「どういう事ですか?」
(神保)「東海道新幹線ができて、国民みんなが、新幹線の魅力に取り付かれたんだ」
(青井)「新幹線ブーム」
(神保)「そう!。政府は日本の大動脈として、太平洋ベルト地帯の底上げに新幹線が使えると考えて、北九州・福岡まで延伸する事を決める」
(青井)「そこに、北陸新幹線構想が出てきた」
(神保)「当然!」
(青井)「うちの所にも、新幹線が欲しいという話が出ますよね」
(神保)「全国各地でわんさか」
(青井)「じゃ、新幹線誘致合戦となる訳か?」
(神保)「その中で、北陸新幹線を優位にしたい」
(青井)「北陸ではなくて、北回りってしたのは、」
(神保)「地域の為の新幹線ではなくて、国家プロジェクトとしたかった」
(青井)「松本から長野に変えたのは…、県都だから?」
(神保)「県都の方が、建設する意義が高いと考えたからだろうね」
(青井)「大将は失敗するだろうって言われたけど、結構考えられた構想変更じゃないんですか…?」
(神保)「いや、違うだろう。この記事を読んで…」
(青井)「富山の県知事が、名称変更とルート変更に反対!って、ありますね」
(神保)「北陸新幹線構想の言い出しっぺは…?」
(青井)「富山県ですよね」
(神保)「だから、この構想推進は、富山県が幹事をとっていた」
(青井)「まぁ、1964年に越中市が誕生してましたからね。都市としても、ルート中心地だし…」
(神保)「これぐらいの大きなプロジェクトを動かす時には、大義名分が必要なんだよ」
(青井)「構想当時の大義名分というと…」
(神保)「東海道新幹線の代替新幹線、そして、太平洋側と日本海側の格差是正が全面だった」
(青井)「それは、弱い理由…?」
(神保)「とっても弱い理由だよ」
(青井)「代替新幹線っていっても、100年に一度あるかないかの災害に、多額の投資をするのか?」
(神保)「東京との格差是正なんて、全国どこでも同じ悩みを抱えている?」
(青井)「だから、北陸新幹線が必要なのか?、そして、この構想変更は、」
(神保)「小手先の戦略。ルート変更なんかは、これやりはじめると段々と妥協の産物となる」
(青井)「みんなの要望を何でも聞くと、魅力がなくなってしまうという事かぁ」
(神保)「こんな事をやっては失敗すると、その時の知事は、ちゃんとわかっていた」
(青井)「そうか、じゃぁ大義名分は…?」
(神保)「これだよね」
 
大将が、取り出したのは、その当時の県戦略資料
そこには、『政令指定都市〜越中市構想』と書かれていた
 
(青井)「そうか!、全国7番目の政令指定都市」
(神保)「そういう事」
(青井)「横浜・名古屋・京都・大阪・神戸・北九州の先行大都市と対等となる都市」
(神保)「政令指定都市には、当然のように新幹線が必要と言える!」
(青井)「富山県には、政令指定都市がある」
(神保)「知事は、政令指定都市に昇格できれば、富山県のチカラで新幹線は引っ張ってこれると考えた」
(青井)「東京と北陸を結ぶ新幹線ではなくて…」
(神保)「そッ!、東京と政令指定都市の越中市を結ぶ新幹線だからこそ、優位性が高くなる」
(青井)「越中市が、政令指定都市に昇格したのは…、1968年」
(神保)「北陸新幹線が、事業計画に格上げされたのも1968年」
(青井)「翌年には建設が始まったから、政令指定都市の効果ってスゴいんですね」
(神保)「この3年後に、全国整備新幹線計画として、東北・上越・成田の建設が決まったんだけど…、」
(青井)「北陸新幹線が、これらの整備新幹線計画と同じに扱われていたら…」
(神保)「北陸は、埋没してたかも…、」
(青井)「いまだに、北陸新幹線が出来てないかもって話…?」
(神保)「あり得る話」
(青井)「この3年の差は、とてつもなく大きいですね」
(神保)「でも、差別化できてなければ…」
(青井)「あぁ〜、怖くなってきた」
(神保)「それだけ、あの当時の戦略がスゴかったか」
(青井)「それもこれも、リーダーの判断力があったから」
(神保)「それ以上の、リーダーの行動力だろうね」
 
考え深い表情のふたり
 
(青井)「建設から9年、1977年に北陸新幹線が開業ですね」
(神保)「本当なら、東京駅で成田新幹線と直通だったかもしれないんだけどなぁ」
(青井)「成田新幹線は、立ち消えになっちゃいましたから…」
(神保)「でも、北陸新幹線は、あくまで松本経由の直線新幹線に拘ったおかげで…、」
(青井)「世界最速の新幹線として、今もギネスに載っている!!」
(神保)「そう!。開業当時は時速260キロだったけど、いまや時速370キロ」
(青井)「東京・大阪に、それぞれ1時間あまりで行けるのは、やっぱりインパクトがありますよ」
(神保)「今年夏には、時速400キロ営業をはじめるしな」
(青井)「富山から新宿と新大阪が、それぞれ59分になるんでしょ」
(神保)「新宿と新大阪も、2時間を切る」
(青井)「スゴいですよね」
(神保)「東海道新幹線と、熾烈なスピード競争をやってるからなぁ」
(青井)「人口が、飛躍的に伸びましたのも、北陸新幹線の開業頃ですよね」
(神保)「そこにも、戦略があったんだよ」
(青井)「環状線と地下鉄ですか?」
(神保)「これも知事の戦略だ」
(青井)「何がスゴかったんでしょう」
(神保)「新幹線が出来たあとの、在来線をどうするか?。その戦略があったという事」
(青井)「どういう事ですか?」
(神保)「大概、大きい事業は呼ぶ事を重視して、呼んだ後の事を考えてない」
(青井)「新幹線を呼べてよかったね…」
(神保)「それで終わってしまうと、それは都市戦略とは言えないんだ」
(青井)「呼んだ後をどうするか?」
(神保)「この記事には…」
(青井)「『新幹線以上に、在来線を活かす事も重要』と知事のコメントが書かれている」
(神保)「こっちには、『生活鉄道の充実を図る』ってもある」
(青井)「この環状線は、そういう為につくられた」
(神保)「まぁ、国鉄・私鉄と調整は大変だったようだけど…」
(青井)「新幹線開業に合わせて、開業させるなんて、良く間に合いましたね」
(神保)「既存鉄道を活用したというのがうまかったんだろうね」
(青井)「それも戦略ですか?。で…、地下鉄も」
(神保)「これらは、政令指定都市が誕生したから実現できたものだよ」
(青井)「富山区で建設された日本海側初の地下鉄」
(神保)「政令指定都市だから地下鉄がつくれるという強さ」
(青井)「既存の国鉄富山港線と地鉄上滝線の間は南北線、地鉄本線と国鉄呉羽駅間は東西線ですね」
(神保)「その当時、全国でも珍しかった地下鉄のある街だから、企業の出先機関がグ〜ンと伸びた訳さ」
(青井)「新幹線開業から2年後の1979年開業だから、歴史もありますしね」
(神保)「他県より早く実現できたことのアドバンテージ、これが大きいよ」
(青井)「実現が遅れてたら、こんなにも発展していない」
(神保)「巨額投資で、大反対もあったけど、今から考えると…」
(青井)「あの時やってて正解でしたよ。でも、何故反対する人っているんでしょう?」
(神保)「いつの時代も、石橋を叩いても渡らない人っているもんだよ。特に現代はね」
 
感慨深げに話合うふたり
博士が、報告書をまとめようとすると大将が…
 
(神保)「博士、まだまだ重要な事が残っているよ」
(青井)「えッ!なんですか?」
(神保)「あれだよ」
 
大将の指差す先には、越中都の新しい摩天楼が
 
(青井)「JR北陸」
(神保)「そう!」
 
ふたりは、再び資料と格闘する
 
(青井)「国鉄民営化の当初案に、JR北陸ってなかったんですね」
(神保)「立山を境に、JR東日本とJR西日本に分割予定だったんだ」
(青井)「越中都は、JR西日本?。それって、どうなんでしょう?」
(神保)「うん?」
(青井)「JR西日本って、結局、大阪が軸でしょ。越中って、端っこに位置するから、重要視されないですよね、きっと」
(神保)「わかってきてるじゃない。この記事見てみろ」
(青井)「あッ!こっちも知事が噛み付いている」
(神保)「すでに都知事の時代だから、全国でも越中都が注目されている訳よ」
(青井)「『越中都のプライドにかけて、JR北陸を実現させる!』って言ってますよ」
(神保)「地元の熱意!」
(青井)「熱い人がいたんですね」
(神保)「いや!、これがリーダーの本来の役目だと思うよ」
(青井)「メッセージを発する事」
(神保)「おぉ?、素晴らしい!。そういう事が大事なんだ」
(青井)「北陸電力・北陸銀行、そしてJR北陸ですか…」
(神保)「大都市の顔が揃ったのは、行政の努力があったからなんだ」
(青井)「あのJR北陸タワーが出来たのは…?」
(神保)「うん!?」
(青井)「JR北陸があるおかげなんですね」
(神保)「それだけじゃないな。交通電子マネーの『Raica』が出来たのもJR北陸があるからこそ」
(青井)「先日、東京へ行った時も、suicaとの相互利用が便利でした」
(神保)「あとは、早く新幹線が開業できたから、在来線の運営もJR北陸にやってもらえてる」
(青井)「他の整備新幹線は、地元自治体の大変な負担になってますもんね」
(神保)「わずかでも、早く実現させる大切さ」
(青井)「わかって来ましたよ!」
 
ふたりは、報告書をまとめながら
 
(青井)「でも、環状線があった事で、街の分散化も防げてるんじゃないですか?」
(神保)「そうだね。全国では、郊外化によって中心部の衰退が深刻だから」
(青井)「これも戦略なんですか?」
(神保)「どうだろう?。在来線を生活鉄道と位置づけたおかげかもしれない」
(青井)「鉄道を軸にした街づくりですか」
(神保)「先見の明があったんだろうね」
(青井)「スゴいですよ、やっぱり。偶然ではない!」
(神保)「それだけじゃないよ、新幹線が早く開業したおかげで、」
(青井)「何ですか?」
(神保)「北陸新幹線を軸に、支線新幹線も整備できる事になった」
(青井)「単線だけど、松本長野間の長野新幹線や米原敦賀間の中京北陸新幹線が出来たし、それに富山長岡間の北越ミニ新幹線ですよね」
(神保)「越中都にエネルギーを吸い上げる静脈新幹線網だよ」
(青井)「それもこれも先人のおかげ」
(神保)「そういう事」
(青井)「報告書ができました!」
(神保)「ヨシ!、次は高速道路だなぁ」
(青井)「ハイ!!」
 

幻の繁栄〜あいの国篇(6)「東富自動車道が実現」

 
あいの国都市戦略研究所の第2会議室
大将こと神保主任と博士こと青井研究員が、今後は高速道路の調査をはじめていた
 
(青井)「いや〜、こう資料を整理してゆくと、肩がこりますね」
(神保)「うぅ〜ん」
(青井)「どうしたんですか?」
(神保)「老眼でなぁ、この縮刷本は読めん」
(青井)「あぁ、そういうのはボクがやります」
(神保)「すまんなぁ…。しかし、うちらの調査は、色気がないなぁ」
(青井)「そうですよね〜、もう少し担当者割を考えほしいなぁ」
(神保)「じゃぁ、博士と姫を交換するか!」
(青井)「えッ!、ボクいらない子ですか?」
 
そこへ、会議室の扉が開いて、
 
(前田)「頑張ってますか!?」
(神保)「おぉ〜、リーダー!!」
(青井)「良かった、華が来た」
(前田)「ハイ!差し入れです」
 
差し入れには、カップヌードルとおにぎり
 
(神保)「おぉ!お腹すいてたんだよね〜」
(青井)「えぇ〜と、徹夜しろって感じもするけど…」
(前田)「うん!?」
(青井)「何でもないです!。でもリーダー、越中市のチカラってスゴかったんですね」
(神保)「私も、改めて勉強になりました」
(前田)「新幹線の報告書、読みましたよ」
(青井)「越中市が誕生してなかったら、北陸新幹線は出来てませんよ」
(神保)「彼も成長したでしょ」
(前田)「そうね、目先の利益を追いかけると大政を誤るのよ」
(青井)「うん!?」
(神保)「だから、いつの時代にも反対する人がいる」
(青井)「あぁぁ、そういう事ですね」
(前田)「でも、北陸新幹線よりも奇跡的なのは…」
(青井)「北陸新幹線よりも奇跡的なもの?」
(神保)「やっぱり、東富自動車道ですか!」
(青井)「あれが、奇跡的な事なんですか?」
(前田)「あの高速道路がある事自体、当たり前だと思ってるでしょう」
(青井)「あんなに交通量があって、渋滞もする優良高速道路ですよ」
(神保)「下手すると、東富自動車道はいまも出来てないかも」
(青井)「これもですか?」
(前田)「出来てないどころか、影もカタチもないかもよ」
(青井)「あり得ないですし、考えたくないです」
  面食らっている博士に、優しくリーダーが…
(前田)「考えなさい」
(青井)「はい…。」
 
おもむろに、年表を拡げる大将
 
(神保)「ちょっと、まとめてみたんだけど…」
(前田)「全国自動車道計画の年表ね」
(青井)「高速道路と自動車道の違いってなんなんですかね」
(神保)「どちらも、同じ自動車道建設法にある自動車道なんだけど、東名と名神は早くできた名残だね」
(前田)「1963年に東名が、1965年に名神が開業するんだけど、これまでは自動車道というのは、世間的に馴染みがなかったのよ」
(神保)「だから、高速道路という表現がよく使われたという訳」
(前田)「名神開業の翌年1966年に、国土開発縦貫自動車建設法が改正されて、全国7600キロの自動車道整備が決まったの」
(青井)「そこから、自動車道って一般化したんだ」
(神保)「そういう事。東富自動車道もその時に決まった」
(前田)「でも、自動車道構想自体は、結構前からあった話なのよ」
(神保)「ここですね」
  大将が年表を指差す
(神保)「最初に法律が試行されたのは、1957年4月ですね」
(前田)「この時には、中央・東北・北海道・中国・四国・九州の自動車道を整備する計画だった」
(青井)「あれッ?、東名や名神がない。それに、北陸関係が入ってない」
(神保)「東名は東海自動車道として、あとから別の法律がつくられて、名神は中央自動車道として整備されたんだ」
(青井)「名神が中央自動車道なんですか?」
(前田)「知らなかった?」
(青井)「はい。でも、北陸が入ってないです?」
(神保)「それだけ、北陸は軽視されてたんだよ」
(前田)「北陸が出てくるのはここ、4年後の法改正で…」
(青井)「アッ!北陸自動車道が出てきた。あとの東富自動車道と東海北陸自動車は?」
(神保)「東海北陸自動車道は、1964年の別法律して登場するんだ」
(前田)「問題は、東富高速道路」
(神保)「これが、出てきたのは1965年」
(前田)「1965年の北陸新幹線に合わせて、東京と結ぶ高速道路も必要となった」
(青井)「全国の自動車整備が決まる直前ですよね。こんなに遅くに活動してたら、間に合わなかったんじゃ…」
(神保)「だから、奇跡的な出来事なんだ」
(前田)「前年に越中市が誕生するまで、北アルプスにトンネルを掘るなんて無理な話というのが、全体的な雰囲気にあったのね」
(神保)「その当時の山岳トンネルで、全長20キロのトンネルは世界一になるから」
(青井)「世界一!」
(神保)「それが、北陸自動車道でも後回しだった北陸で実現できるなんて、誰も考えられなかった」
(前田)「その重要性を唱えたのは、1965年9月26日に金沢で行なわれた1日内閣」
(青井)「北陸新幹線と同じ、あの1日内閣?」
(神保)「この記事にあるだろう」
(青井)「ほんとだ、北陸新幹線と一緒に、北陸関東産業道路の実現を!って書かれてる。けど、北陸関東産業道路って?」
(神保)「もともと北陸と東京を結ぶ国道がなかったので、幹線道路を誘致したかったんだ」
(青井)「高速道路じゃないじゃないですか?」
(前田)「ルートは、松本から安房峠をトンネルで抜けて、平湯そして神岡を抜けて富山に繋げる構想」
(青井)「今の、第二東富自動車道ルートですよね」
(神保)「北陸関東産業道路構想はその後、平湯から高山を抜けて、小松や福井に抜けるルートも追加提案されたんだ」
(青井)「なんか玉虫色な構想で、実現しそうにない感じがします」
(前田)「そうなのよね」
(青井)「大体、北陸関東産業道路って、なんかダサイよね」
(神保)「北陸関東産業道路構想が出る前に、富山県には、東富自動車道構想という案があったんだよ」
(青井)「でしょ!。で、誰が言い出しっぺだったんですか?」
  その質問には、リーダーも大将も渋い顔に
(前田)「わからないのよ、あまりにも古くて」
(神保)「まぁ、東名高速道路が造られている頃だと思うけど…」
(青井)「でも、北陸関東産業道路が、東富自動車道構想になった」
(神保)「これも、知事の戦略だよ」
(前田)「博士が予想した通り、玉虫色のルートで、よくわからない名称では実現に時間が掛かってしまう」
(神保)「自動車道構想に格上げした方がいいと」
(青井)「でも、名称ですか?」
(前田)「わからない!?」
(神保)「博士、大義名分だよ!」
(青井)「なるほど、富山県には政令指定都市がある」
(神保)「政令指定都市と東京を結ぶ重要性、それも北陸新幹線と同じ直線ルートに拘った」
(青井)「北アルプス横断トンネルですね」
(前田)「知事は、これを『東富自動車道』と愛称を付けたのよ」
(青井)「もう少し遅ければ、東越自動車になってたかも…」
(前田)「あと重要なのが、この愛称」
(青井)「愛称ですか?」
(神保)「自動車道に都市と都市の頭文字で呼ばれているのは…?」
(青井)「東名と名神と…、あとは!?」
(神保)「東名阪と札樽ぐらい」
(前田)「大都市同士を結ぶための自動車道」
(青井)「知事は、そんな名称の価値に拘ったんですね」
(前田)「それが、都市力でありブランド力となる」
(青井)「スゴいですよ!」
 
奇跡的な出来事に感動する博士
改めて、先人の素晴らしさを感じるリーダーと大将
 
(神保)「こう改めて調べると、地域を引っ張るリーダーって大事ですね」
(前田)「そのリーダーはどこからくるか?」
(神保)「もともと、どれだけ地域に人材を抱えているか?ですか」
(青井)「地域に人材を確保しているか?」
(前田)「あなたも、その候補なのよ」
(青井)「ボクもですか?」
(神保)「当たり前じゃないか!、しっかり頼むぞ」
(青井)「は、はい…」
 
妙なプレッシャーに、博士の表情が硬くなる
 
(青井)「北陸新幹線の工事開始とほぼ同時に、東富自動車道の建設も始まって…」
(神保)「1980年に全線が開通」
(青井)「建設期間が12年ですか」
(前田)「東名や名神に比べると遅れたけど、他の自動車道に比べると、圧倒的に早かった」
(神保)「それだけ、越中市が重要と認められたからだよ」
(青井)「政令指定都市をつくっておいて、大正解だったという事ですね」
(前田)「越中の地図を見て」
(神保)「越中を中心に、新潟・長野・松本・名古屋・大阪・能登へ高速道路が伸びているだろ」
(青井)「放射線状ですね」
(前田)「6方向に伸びる高速道路を持っている都市は…?」
(青井)「東京と名古屋と大阪ぐらい」
(前田)「だから、企業や産業を呼べたのよ」
(神保)「越中からエネルギーを放出してるだろ」
(青井)「わかった!、新幹線がエネルギーを吸収する静脈で、高速道路がエネルギーを放出する動脈なんだ」
(神保)「新幹線で人を呼び込み、そのパワーで物づくりをして、それを物流で外貨を稼ぐ」
(前田)「面白い考え方!」
(神保)「越中都が日本の心臓なんですよ」
(前田)「あとね…。他よりも先に整備できた事が、更に都市部の高速道路の整備ができた」
(神保)「都市高速道路ですか」
(青井)「これも政令指定都市だからですよね」
(前田)「そういう事!」
(神保)「富山区と高岡区の環状高速線と、それを結ぶ中央高速線」
(青井)「1日の長って事ですよね」
(神保)「でも、ひとつでも判断を間違えたり、行動が遅れたら…」
(前田)「今のような越中都は、実現されてなかった」
(青井)「怖いなぁ」
 
全員は、改めて奇跡的な出来事を感じた訳で
 
(前田)「さぁ、お嬢の方は、どうなってるかしらね」

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