来月、いよいよ石川新県庁がオープンする。金沢を東西に結ぶ北陸自動車道の連続立体高架道からも、その威容な姿を見ることが出来る。まるで、北陸の新しい中心地であるかのような存在感を、北陸道の利用車へ見せ付けているようである
 本当に金沢市が、将来、北陸の中心地になることができるのか?。それは金沢市が、政令指定都市を実現できるかどうかに掛かっているように思われる。金沢市が、北陸3県の中で、唯一の政令市になれば、来るべき道州制時代に「北陸州」の州都となることも夢ではないはずだ。
 石川のライバル富山にとっては、金沢市の政令市獲り、そして北陸州都獲りは、かなりの脅威となるのは間違いない。
 2005年の合併特例法の期限が、刻一刻と迫ってくる中、金沢市の取り巻く、周辺環境も慌しくなってきた。
 10月29日。石川地場産業振興センターで、県都政令市推進経済人会議が開かれた。金沢商工会議所・金沢経済同友会・金沢青年会議所・金沢政策フォーラムが共同で開催したフォーラムである。このフォーラムでは、金沢市の政令市化・北陸州都構想・北陸の中枢管理都市強化という言葉が、踊っていた。そして、仮想敵都市として「富山」をターゲットとし、早期に金沢市の政令市化を進める必要性なども議論された。
 更に、今月3日、正式に「県都政令市推進経済人会議」が設立され、その総会には、石川の経済界から約300人の参加があった。経済界が合併協議会設置著名や住民発議などの支援を行うなど、金沢市の政令市実現の為に、強力に後押ししていくことが確認されたのである。そして、人口60万都市実現を目指し、各自治体と連携を強めていくと言う。
 金沢の経済界は、かなりの本気になってきた印象がある。
 これに対して、富山の経済界の動きは弱いようだ。富山経済同友会では、「富山県の市町村合併を考える県民協議会」を立ち上げ、年内を目標に、経済界としての提言を行うと言う。
 その一環として11月24日に市町村合併シンポジュームが開けれた。
北陸自動車道から見た石川新県庁
 しかし、金沢の経済界のような政令市実現を目指した積極的な活動までには、至っていないのが現状だ。年内までにまとめられるという提言にも、あまり具体的な内容にはなりそうになく、やはり富山県は、新潟市・金沢市などから、大きく取り残されて行きそうな気配である。
 金沢市自体は、野々市町に続き、鶴来町などの白山麓村からも合併協議を断られ、更に津幡町・内灘町からも否定的な意見が伝えられている。決して先行きは良くないのだが、経済界が政令市実現でひとつにまとまれば、県も動かざるを得なくなるのではないだろうか。
 今後の動向から目が離せなくなってきたと言えよう。

↓、金沢駅から金沢港まで延伸された50メートル道路。
県庁移転後の新交通システム導入時期が焦点となりつつある。新県庁周辺には、既に新交通システムの駅舎用スペースも確保されている。
 金沢市が北陸州都に相応しい都市になる為には、先行する他のブロック中枢管理都市に少しでも追いつく必要がある。
 他のブロック中枢管理都市とは、札幌市・仙台市・名古屋市・広島市・福岡市などが挙げられよう。私が考える、都市分類としては、以下のように分けたいと思います。
<Aクラス>メガロポリス(大都市集合体)
<Bクラス>ブロック中枢管理都市
<Cクラス>準ブロック中枢管理都市
<Dクラス>エリア中核都市(県都など)
<Eクラス>地方都市
現在の金沢市のポジションは、準ブロック中枢管理都市と考えます。同じような都市としては、さいたま市・新潟市・静岡市・岡山市・松山市・熊本市などが挙げられよう。
 金沢市が、ワンランク上の都市を目指すのであれば、都市圏内の交通網整備は不可欠と言える。
 その点で言えば、金沢周辺の都市道路整備は、驚異的に進んだと言える。
 駅西ー金沢港間の新設50メートル道路をはじめ、駅東口ー武蔵ヶ辻間の新設道路・↓金石街道の6車線化・東インター通りの内灘延長など、ここ10年でかなりの幹線道路が開通した。
 特に駅西周辺は、JR北陸線の連続立体高架化もあって、大都市並の景観を見せ始めている。
 この道路整備の勢いは、まだまだ続いており、今後も大規模な外環状道路や、北陸道月浦インター・能登・福光・松任へのアクセス道路整備が進んでいる。これは、新潟市の道路整備を大きく上回る規模で、北信越の県都では、もっとも進んでいると言えるだろう。
 ←、50メートル道路の終点地「金沢港」。
 高岡市で建設が進む地域高規格道路の環状道路より、1年遅れて建設が始まった、金沢市の外環状道路(地域高規格道路)。金沢の方が、規模内容とも、遥かに大きいのだが、今年夏には、側道が早くも開通するなど、建設スピードが極端に早い。
 この金沢外環状道路が完成すれば、都市道路の機能として、仙台・札幌と肩を並べる規模になる。特に、全区間の殆どが、自動車専用道路となるため、インパクトもかなり強い。富山市の環状道路(地域高規格道路)が、全くの手付かず状態を考えると、金沢に10年以上の差を付けられたと言えよう。更に、公共事業の縮小化が予想される為、この10年の差は一気に20〜30年の差になる可能性が高い。
 今後は、この外環状道路に能登有料道路や福光町に抜ける地域高規格道路の接続が焦点となるだろう。金沢を基点に富山・福井・能登・飛騨から人・物・情報を集める事となる。
 道路網整備とともに、鉄道整備も至極順調である。
 JRの在来線連続立体高架化は、北信越の中では最も早く整備された。総工費500億円。
 現在は、北陸新幹線の建設が急ピッチに進んでいる。
 歴史的な街を、コンクリートの巨大な陸橋群が、姿を現している。特に、北陸自動車道を跨ぐルートにした為、4層高架化部分もあるなど、空中を走る新幹線が登場しそうだ。
 この新幹線整備に合わせて、東金沢駅が北陸線ごと移転、駅舎も橋上駅化された←。更に、森本駅も新幹線が頭上を通る橋上駅化↓されるなど、金沢市内のJR駅舎は、軒並み大都市並の様相を見せている。
 新幹線開通後、平行在来線は、地元の第3セクターに移行する事となるが、石川の場合は、JR七尾線がある為、津幡ー金沢間はJR西日本が引き続き経営するものと思われる。
 そういった意味では、JR西日本の力点は、富山・福井とは違う扱いを石川にしていると言えるだろう。
 今後、新幹線の開業を想定して、金沢市では、在来線の連続立体高架化を野々市町附近まで、2キロ延長する事を検討しはじめた。北陸新幹線は、松任市に新幹線の車両基地を造るため、金沢市内は、新幹線が完全に整備される事となる。
 小松駅周辺の在来線連続立体高架化事業が、完成したこともあり、金沢市の在来線連続立体高架化の延長は、実現味を帯びてきた。早ければ、北陸新幹線の開業時期(おおよそ10年後)に間に合わせるものと思われる。
 まさに金沢市は、道路網・鉄道網合わせて、巨大なコンクリートジャングルと化す勢いである。不思議な事に、歴史文化の都市でありながら、このようなコンクリートジャングル化に批判の声が、殆ど聞こえてこない。これもまた、金沢らしい点なのかもしれない。
 政令市を目指す金沢市としては、将来の合併先として、松任市も想定することとなるだろうが、北陸新幹線の車両基地を活用した新幹線松任駅設置も、具体化する事が十分予想される。ひとつの市にふたつの新幹線駅が出来る、そんな可能性もある。
 新幹線の開業後は、長年の構想で取り沙汰されてきた新交通システム整備が具体化されるだろう。既に、金沢駅・武蔵ヶ辻・香林坊の地下施設は、地下鉄を想定した構造となっている為、あとは採算面と建設費問題の解決が待たれている。
 今、注目されているのが、LRT(ライト・レール・トレイン)、いわゆる路面電車である。欧米でLRTは見直されており、郊外は路面電車化や既存鉄道網に乗り入れたり、都心部では、地下鉄化やトランジットモール化されるなど、多彩な活用方法が採られている。富山・高岡・福井でも、路面電車を見直す動きがある。
 金沢の場合では、都心部を地下鉄化、駅西を高架化、そして北陸鉄道の本線に乗り入れることが想定されている。しかし、採算面から考えると、そのままの構想実現はかなり難しいと言わざるを得ない。建設費は2,500億円を超える規模となるからだ。
 新県庁オープンに合わせ、将来の新交通システムを睨んだ、社会実験が行われる。新県庁ー金沢駅ー武蔵ヶ辻ー香林坊ー片町ー野町間を結ぶ、シャトルバス「シティーライナー」が来年1月から3月に掛けて運行される。20-30分毎に運行されるバスであるが、どの程度の利用者があるか注目されるところである。
 LRTの他にも、ガイドウェイバス構想もあるが、期待度はかなり低い。やはり本命は、LRTになるのだろうが、当面はシティライナーを継続事業として、実績を積むしかない。その為には、京成バスなどで導入されている2連結バスの導入も検討すべきだろう。
 将来、LRTを導入する場合に検討したいのが、幹線道路をそのまま利用する案。建設費も安く、建設期間も短いので、実現性や経済効率も高いと考えます。しかし車線を塞ぐ為、交通対策が必要になる。そこで例えば、武蔵ヶ辻ー片町ー野町間の歩道にアーケードを新設(香林坊ー片町間は付け替え)して、その屋上にLRTを走らせるというのはどうだろうか。
 
最近のLRTは軽量化が進んでいるので、さほど大規模な高架化でなくても大丈夫だと考えます。駅舎は既存のオフィスビルや商業ビルを活用する。この方法であれば歩行者用アーケードも確保できるので、建設費もはLRT導入目的だけでなく道路整備費や商業活性化関係の補助金から捻出できる可能性がある。LRTの導入は、都心部の活性化にも繋がると考えます。
 全国的に、地方都市の中心商業地は、著しい衰退を見せている。北陸でも、高岡・小松・長岡などの小規模都市は勿論、富山・福井・長野をはじめ新潟などの県都でも、中心商業地の吸引力が弱まっている。
 そういった中、唯一金沢だけが、中心商業地としての形を維持できている。これは、石川県内にライバルとなる都市が無かったのと、高速道の整備により、富山・福井へ商圏が拡がり始めたからと考えられる。
 金沢の商圏は、およそ半径50キロ、商圏人口は120万人を超える。
 この商圏力が、北陸唯一の有名ブランド店を多数呼び込むことに成功してきた。ここ2−3年で、金沢は全国でも指折りのブランド都市へと変貌している。グッチ・ルイヴィトン・アニエスベー・ティファニーをはじめ、ブランド直営店が軒を連ね始めており、香林坊界隈は「ブランド通り」と呼ばれ始めてきた。
 今年春にリニューアルした香林坊大和は、ズラリとブランド店を並べるなど、金沢老舗の意地を見せている。それに先立ち、今年春にリニューアルした名鉄エムザも第2弾として来年春には、追加リニューアルされる。伊勢丹との連携を深め、有名ブランドの獲得に乗り出すと言う。
 金沢のブランド都市化は、まだまだ続くようだ。
 しかし金沢の強みは、中小小売店が多い事だ。↑香林坊・→竪町・←片町・↓柿木畠などの通りでは、街並み景観の整備が進んでいる。
 金沢では、ひとつの商店街が、街の活気を支えるのではなく、複数の商店街が固まることで、隣接都市には無い魅力的なゾーンを形成していると言える。平日の夕方でも、人通りが多い。新潟・富山では見られない光景だ。
 金沢でも、大型郊外店が増えてきた。現在、売り場面積が1万5千平米を超える郊外大型店が、金沢周辺には9店舗・富山3店舗・高岡3店舗・小松2店舗・福井4店舗と、周辺都市に比べると圧倒的に多い。にも関わらず、金沢中心市街地は、活気を維持してきた事は、富山・福井など隣接県都にとっては驚異であろう。
 今後も、武蔵ヶ辻の近江町周辺整備も控えるなど、金沢中心商業地整備は続きそうだ。
 まさしく北陸の商業中心地となりそうな勢いを感じる。仙台や福岡に代表されるブロック中枢管理都市の一人勝ち状態が、北陸でも起こりそうである。
 しかし、そんな金沢の中心商業地も、順風満帆とは言えないようだ。これまで、日本海側最大の歓楽街を形成してきた片町であるが、県庁が駅西に移転していくため、来年以降、県庁関係者を中心として、どれだけのお客が減少するか、心配の声が挙がっている。
 実際、新県庁周辺では、居酒屋を始め飲食店が急増しており、片町はかなりのダメージを受けるのではないだろうか。
 新県庁跡地利用も、まだ具体化しておらず、中心地の活性化に繋がる跡地利用は苦戦しそうである。県では、大型の図書館機能を持たせた公共施設を検討しているが、県財政の状況を考えると、実現までには時間が掛かりそうだ。NHKが県庁移転跡地への進出を検討しているが、県庁跡地を全て使うほどではなく、今後も県庁跡地問題は続くであろう。これまで、金沢城址にあった金沢大学が、郊外の角間地区へ移転して行くなど、中心商業地に人が集まりにくい環境を創ってきたため、県庁移転の影響が、どのような形で現れるか心配されるところである。
 例えば県庁跡地に、市立金沢美術大学を発展させた、"金澤藝術大学"を整備してはどうだろうか。現在の美術学部の他に、音楽学部・舞台映像学部を設けて芸術の総合大学化を図るのです。金沢にはアンサンブル金沢があり音楽文化も育ってきてます。またEAT金沢といった映像イベントやデジタル映像・コンテンツ産業も多く、更に演劇や能舞台も盛んである。県庁跡地近くには"21世紀美術館もオープンします。これらを、金澤藝術大学と有機的に結んで、新しい文化を育成し、それを中心市街地の活性化につなげるのです。
 また、中心地の賑わい確保には、娯楽系の施設が少ないのも、不安材料のひとつだろう。今年、中心地で唯一残っていた映画館「金沢グランド劇場」が閉館した。戦後、香林坊の賑わいを作って来た香林坊映画街←。全盛期は、4館8スクリーンを有していたが、郊外のシネコンに押されて、勢いを失ってきた。現在は、アート系単館の109シネモンドが残るのみである。市では、今後も香林坊映画街をシネコンとして再生できないか検討されているようだが、実現までには資金面や運営面で課題が多そうだ。
 しかし、街の顔でもあった香林坊映画街を、長期に放置する訳にはいかない。
金沢の中心商業地の課題も多いと言えるだろう。
 更に、金沢市内には、都市開発ゾーンが非常に多く、全てうまく進むかどうか疑問も多い。
 JR金沢駅整備に伴い、駅東口の富山側には、広大な再開発用地が広がっている→。オフィスやホテル・商業施設を想定されているが、金沢市は既にオーバーストア状態であり、ホテル需要も頭打ちである。オフィスでは、県庁周辺を軸に駅西一体が、オフィス用地となっていることから、この広大な用地が更地のままということも考えられる。再開発の中心となるJR西日本・金沢市が、今後、どのような構想を打ち出してくるか注目したい。
 またJR金沢駅西側の駅西暫定駐車場も、再開発ゾーンであり、現状は全くの手付かずの状態と言える。百貨店などの大型商業施設構想も言われたが、現在の長期景気低迷状態では、実現性に乏しいのが実態だ。こういった問題点の打破には、やはり政令市・北陸州都の実現が必要だという声は当然な流れなのかもしれない。
 市町村再編成すら終わっていないにも関わらず、金沢市を、「北陸州都」にしようという声は、日に日に高まってきている。
 「県都政令市推進経済人会議」では、合併特例法内に、金沢市の60万都市化を議論される見込みで、もし実現するようであれば、富山・高岡は、危機的な状況へ追い込まれるでしょう。
 富山県が、江戸時代の加賀藩植民地へ逆戻りする可能性が高まってきた。富山の先人達が、血を見る想いで、分県を勝ち取った歴史を考えると、金沢市が「北陸州都」になることは不安ではないだろうか。
 何故なら、「何故、富山が分県しなければならなかったか?」を考えるば良くわかる。それは、道路整備を進めたかった金沢周辺と、治水整備を進めたかった富山周辺が対立し、富山の意見が全く旧石川県庁・県議会では、取り入れてもらえなかったという屈辱的な歴史があるからである。
 こういった金沢的な考え方ややり方が、福井や富山を分県へと走らせたのです。今、「道州制」という名のもとに、再び「北陸はひとつ」という表現で統合が言われるようになってきましたが、果たして、金沢市が北陸州都に相応しいのか、良く考える必要があるでしょう。特に、金沢市が北陸州都になることは、富山県にとっては、デメリットが多く、メリットが全くないということを、富山の政財界は議論する必要があると感じます。
 しかし、現実はあまりそういった危機感を、議論がなされていないのが実情です。富山の場合、議論をすることを苦手としているようだ。「影で思っていても、声を出さない」、それが、富山県人の美徳でもあったが、そろそろ、目覚めても良い時期に来ているように思われる。
2002.12.8作成 (2003.3.30改訂)
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